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福岡高等裁判所 昭和42年(行コ)2号 判決 1967年10月24日

控訴人(被告) 佐世保市長

被控訴人(原告) 株式会社小松製作所

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は次の点を附加するほか原判決事実摘示のとおりであるのでこれをここに引用する。

控訴代理人において

一  かりに、本件ブルドーザーの買主である寿重機株式会社(単に寿重機という)、有限会社大協産業(単に大協産業という)らが他の債権者から右物件の差押を受けた場合必ずや被控訴人はこれらの物件の所有権に基き右執行に対する第三者異議の訴を提起するであろう。右の如く自己の利益のために所有権を留保している被控訴人が固定資産税を賦課されるやこれを免ぬがれようとすることは許されるべきでない。

二  被控訴人は本件ブルドーザーについて所有権を留保し買主である大協産業との間に使用貸借契約を締結している。被控訴人が大協産業から現実に使用料を徴していなかつたとしても被控訴人は使用料相当ないしそれ以上の利益を本件ブルドーザーの販売価格に加算しているのであるから本件ブルドーザーについて買主が収益を得ていて被控訴人に全然収益がないということはあり得ない筈である。したがつて、固定資産税がかりに、収益税であるとしても収益を得ている被控訴人に固定資産税を賦課する合理的根拠があるということができる。

三  地方税法第三四三条第八項は所有者課税に対する例外規定であるから本件の場合に右の例外規定を類推適用することは許さるべきでない。

と述べた。

理由

一  昭和三九年一月一日当時被控訴人主張のブルドーザー五台が佐世保市内に存在し、そのうち小松センターD五〇S五九五四号一台を寿重機が、その余の四台(本件物件という)を大協産業がそれぞれ自己の事業の用に供し、かつ、会計帳簿処理上資産として計上し、法人税の所得の計算上その減価償却額を必要経費に算入していたこと、以上の物件につき控訴人が被控訴人に対しその主張の如き課税処分及び更正決定処分をしたこと、右課税処分が昭和三九年度固定資産税の過年度賦課であることはいずれも当事者間争がない。

二  原審証人東川安男、鯨臥美春の各証言を総合すると、本件物件は昭和三九年一月一日以前に被控訴会社から大協産業に所有権留保付で割賦販売されたものであるが寿重機に同様販売された前記ブルドーザー一台はその売主が被控訴会社ではなく、訴外株式会社小松センターであつたこと、そして右後者の物件について右の如き売主違いの事実が後日控訴人に判明したため控訴人が前記更正決定処分をなすに至つたことがそれぞれ認められる。右認定を覆えすに足る証拠はない。

三  そこで、控訴人が本件物件について被控訴人に対しなした本件課税処分の適否について判断する。

本件物件が地方税法第三四一条第四号にいう償却資産であることは大協産業が前記の如く自己の事業の用に供し、かつ会計帳簿処理上資産として計上し、法人税の所得の計算上その減価償却額を必要経費に算入している事実に徴し明らかである。

四  被控訴人は、固定資産税はいわゆる収益税であつて収益を得ている者に対し課せられるべきものであるところ本件物件の売主である被控訴人が本件物件について所有権を留保しているのは販売代金の支払を確保するためであつてそれ以外の意味はなく、本件物件を使用して現実に収益を得ているのは大協産業であるから被控訴人に対する本件課税処分は違法である。また、もし、被控訴人に対し固定資産税を課すべきであるとするならば租税負担の公平の原則及び実質課税の原則に反すると主張する。

しかし、地方税法第三四三条第一項ないし第三項、第三八三条によると、固定資産税は土地台帳、家屋台帳、償却資産台帳に所有者として登録されている以上当該物件が果してその所有者に属するか否かまた所有者として登録されている者が現実に収益を得ているか否かを問うことなく課される所謂台帳課税主義ないし表見主義が採られていることが窺われるのでこの事実と、地方税法には所得税法第三条の二、法人税法第七条の三の如き所謂実質課税の原則が明定されていないことを考えると固定資産税は寧ろ土地、家屋及び償却資産の価値に着目し、これを所有しているという事実に担税能力があるものとして課せられる財産税であると解するを相当とする。もし、固定資産税を収益税であると解し、物件を使用し現実に収益を得ている者に固定資産税を課すべきであるとすると、地方税法第三四三条第一項の「固定資産税は固定資産の所有者に課する」という規定中の所有概念を私法上の所有概念と別異に定義しなければならず、かくては法体系の混乱をきたす虞を生ずる結果となるであろう。殊に本件の如く所有権留保付割賦販売の物件に対し第三者がこれを差押えた場合所有権を留保している売主が右第三者に対し執行異議の訴を提起することができることを考えると、右売主は地方税法上においては所有者でなく私法上においては所有者であるという「所有」の定義を恣意的に解釈しなければならないことになる。

成程、地方税法第三四三条第一項カツコ内の規定、同条第五項、第八項の各規定によると、地方税法が固定資産の実質使用収益者を所有者とみなして固定資産を課すことを明定しているけれどもこれはあくまで固定資産税は所有者負担の原則に対する例外規定であると解するので本件の場合にこれらの例外規定を類推適用することは租税法律主義の原則に反するものと解する。

なお、本件の如き所有権留保付販売の物件所有者に固定資産税を課すことは租税負担公平の原則に反するとの被控訴人の主張については、成程本件物件の使用者である大協産業が本件物件について現実収益を得ていて、売主である被控訴人が使用収益を得ていないのに被控訴人に固定資産税を課すことが一見租税負担公平の原則に反すると見られるかもしれない。しかし、一般に所有権留保付割賦販売の場合売主は単純売買の場合に比し多額の代金を要求していることを考えると売主に対し固定資産税を課すことがあながち租税負担公平の原則に反するとはいいきれないのみならず、もし租税負担公平の原則に反するとしても前記の如く租税法律主義の原則を曲げてまで租税負担公平の原則を貫く解釈態度は当裁判所の採用し難いところである。

五  結局以上説示のとおり本件課税処分及び更正決定処分に付ては被控訴人主張の如き違法理由は認め難いのみならずその他右各処分を取消すべき違法事由を認め難いので被控訴人の本訴請求を棄却せざるを得ない。

よつて、右と結論を異にする原判決を取り消し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 原田一隆 蓑田速夫 安部剛)

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